129号 「不動産小口化商品」開発の経緯

筆者はクレアスライフで13年間にわたり不動産小口化の仕事に携わってきましたが、このコラムでの執筆も今回で最後となりますので、私事にわたり恐縮ですが筆者自身の小口化商品開発に絡む来し方を振り返ってみたいと思います。

不動産業との出会い

第一回東京オリンピックの2年後に大学を卒業すると同時に社会人となりました。そののち日本の高度成長期からバブル崩壊までの時代を一気に駆け抜けてきた感がありますが、2002年に前職である総合化学会社を定年退職しました。
そののち、縁あって菱和ライフクリエイト(クレアスライフの前身)に入社しました。不動産はそれまでの人生で縁もゆかりもない業界でしたが、それまでも新しい仕事の連続でしたのでどんな仕事ができるだろうかと楽しみでした。

中古ファンドの組成

入社後、会社からアサインされたテーマは中古ファンドの組成でした。ワンルームマンションは資産形成のために優れた商品ですが、当時の唯一の弱点は中古市場がなく流動性の無いことでした。(今はレインズのような流通市場があり隔世の感がありますが)。そこで中古マンションを買い取るファンドを組成して流通の促進を図りたいとしたものでした。しかし、社長の眼鏡にかなう中古マンションの仕入れができず、結論から言うと菱和ライフクリエイトが自社で開発した新築マンション約10棟の中から約120戸をSPC(特別目的会社)に売却するという形でYK/TK型(現在のGK/TK型に相当)の不動産ファンドを組成しました。「中古」ファンドではありません(今にして思えば時期尚早であったかもしれません)でしたが、筆者にとっては不動産の証券化という世界に足を踏み込む貴重な経験になりました。

不動産証券化コンサルへ、不動産特定共同事業法との出会い

前述のファンドの組成を通じてできた人間関係もあって不動産の証券化を専門とするコンサルティング会社に転職しました。そこでは顧客の要望に応じ色々な型の証券化のコンサルティングをしましたが、改めて興味を持ったのが不動産特定共同事業法でした。一般的に不動産ファンドは機関投資家や法人を対象としたものですが、不動産特定共同事業法に基づく投資商品は個人の投資家を対象とするものであったためです。

東京家裁の調停委員へ

コンサル会社への転職とほぼ同時期に東京家庭裁判所の調停委員にもなりました。暫くはコンサルの仕事にウェイトを置いていたのですが、ある時期より調停委員の仕事に専念するようになりました。調停の事案で圧倒的に多いのは離婚及びそれにまつわる財産分与、子どもの養育費、面会交流などですが、相続に伴う遺産分割案件も数多く扱いました。遺産分割では親子、兄弟姉妹がここまで争うかというまさに骨肉相食む世界を目の当たりにしました。これはのちの商品開発に大きく影響しました。

「一口家主iAsset」の誕生の経緯

調停委員の任期も終わるころ、投資家が安心できるような仕組みの不動産小口化商品を考えていました。当時不動産小口化商品の代表的なものは住友不動産の「サーフ」や東京建物の「インベストプラス」で匿名組合型の商品でした。このタイプの商品では、投資家が出資した資金で購入した不動産はその事業を運営する事業者の名義となるため、万一その事業者が破綻すると投資したお金はまず戻ってきません。
そこで「複数の投資家が共同してそれぞれが不動産の一部(共有持分)を購入してその所有者になり、その共有持分を事業者に賃貸し賃料を受取る仕組み」の商品を考えました。
賃貸していた事業者が倒産したとしても自身の所有権ですから何ら問題はありません。
しかも実物不動産なので相続や贈与の際に節税が可能です。また小口化されているので公平な遺産分割ができます。
更に商品としての魅力を高めるために対象不動産が20%まで値下りしても元本は棄損しない仕組みや、契約全期間にわたる賃料保証などの仕組みも設けました。この商品企画が当社に採用され「一口家主iAsset」と命名されました。これを機に当社に入社しました。

JAssetへの展開

iAssetを開発した当時は長期間デフレが続き、家賃は下がるもの、不動産の価格は下がるものというのが一般的認識でした。しかし時代は変わってきました。インフレ傾向の進行にともない不動産価格や賃料の下落リスクが減ってきたため、その分の手当てを利回りを上げる方に回すようお客様より要望されるようになってきました。
また、小口化不動産を相続対策として考えるお客様から一口当たりの金額が大きく、かつ運用期間の長い商品が要望されました。
iAssetにこれらの変更を行い、当社の第2の小口化商品「JAsset」への展開を図りました。

クレアスファンドの開発

ここ数年建築資材及び人手不足による建築費の高騰を受け修繕積立金の値上げをするマンション管理組合が相次いでいます。そんな状況の一助となるようクレアスファンドを開発しました。管理組合は修繕積立金の一部をファンドに出資して、ファンドはその出資金で不動産を購入し運用益を管理組合に分配するという仕組です。この事業に対応するために不動産特定共同事業法の対象不動産変更型という特殊な認可を都庁より取得しました。
現在事業化され着々と進行中です。
この商品の特徴はファンド内の物件を増やしたり減らしたりが自由にできること、また投資するお客様に契約期間はなく出資も解約もいつでも自由にできることです。
現在はマンション管理組合向けのものですが、いずれは一般の投資家の方も出資できるようなバージョンができると思います。

結びに

大学卒業以降さまざまな仕事・人・地域を経験してきました。不動産特定共同事業法に出会って自分自身が投資してみたいという目線で商品開発をしてきました。今後はビジネスを離れた新たな環境で新たな目線で何かしらを開発していきたいと考えています。
永らくお付き合いいただき誠に有難うございました。